冬虫夏草フィールドに出る前に > 「インフルエンザは湿気に弱い」それってホント?
掲載日:2012/5/12

「インフルエンザは湿気に弱い」それってホント?

「インフルエンザウィルスは乾燥を好み、多湿な環境には弱い」とよく言われます。
でも以前、沖縄で夏なのに流行しちゃった事がありますよね。 高温多湿な環境なのに、どうしてこのような事が起こるのでしょうか?

今回は、そのあたりについて見て行きましょう。
※今回のお話は、結論を予想しながら読むと面白いかもしれません。
結論だけ見たい方は、要素は湿度だけじゃない へジャンプして下さいな♪
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あちらこちらで、てんでばらばら
「インフルエンザウィルスは湿気に弱い/苦手」 という話は有名だと思いますし、その事に言及したページはかなり多くあります。
ただ、「どうしてそうなのか?」 に関しては、言及しているページがあまりありません。

それだけならいいのですが…ええと、わたし自身も大した知識を持っている訳ではないので、人様の書いたものにケチつけるなんて事はしたくないのですけど…中には 「明らかにおかしいだろ!」 って突っ込みを入れたくなる事を、堂々と書いてあるページが結構あります。
多く見かけるのが、
「インフルエンザウィルスは湿気に弱く、湿度50%以上の(中略)で90%以上が死滅する」
最初っから生きてません!
まぁこれは、『不活性化する』 等を 『死滅する』 って書いているだけだと思われますので、「言葉の選び方」でしょう。
ひどいところになると…

「インフルエンザウィルスは低温を好み、
 10℃前後で最も活発に増殖する」
どこで増殖すんですか!
※ウィルスは、宿主となる細胞の中以外では増殖できません。
※ インフルエンザウィルスの発見前に、インフルエンザの原因と思われていた 『インフルエンザ菌』 ってのはいますが…完全に別物です。 ごっちゃになってるのかな?^^;
すいません、さすがにガマンが出来なくなって、突っ込み入れてしまいました^^;
だいたい、湿度50%以上で『死滅する』のなら、熱帯地方じゃインフルエンザにかかる人が殆どいない事になっちゃいます(実際は、一年を通して患者が出てます。もちろん流行だってします)。

それはともかく、これじゃあソースとして信頼できる情報が…。

というわけで、「困った時は、厚生労働省のページ」ですw
『弱い』のは、ウィルスの方じゃない?
初っ端からいい加減な事を書くわけにはいかないので、厚生労働省のページ の 『インフルエンザ対策』 にある、『インフルエンザQ&A』 から引用させて頂きます。

ここの、Q9 『インフルエンザにかからないためにはどうすればよいですか?』 に、以下の記述があります。
3) 適度な湿度の保持

空気が乾燥すると、のどの粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。特に乾燥しやすい室内では加湿器などを使って、適切な湿度(50〜60%)を保つことも効果的です。
要するに、「インフルエンザウィルスが乾燥を好む」わけではなく、「喉の粘膜の方が乾燥に弱い」事になりますね。

湿度が適切な時は、のどの粘膜がウィルスの進入を防いでくれます。

でも、湿度が低くなって喉の粘膜が荒れてしまうと…

のどの粘膜が、ウィルスの進入を防げなくなります。

でも、これはこれで、「熱帯地方では、一年中インフルエンザが発生している」理由が説明つかないし…
「インフルエンザウィルスが乾燥を好む」 って、ホントに正しいのか、コレ???(汗;

全然関係のない話ですが、この厚生労働省のQ&Aページ、「抗菌薬はインフルエンザに効果がありますか?」 なんて質問もあります。 素直に「抗生物質は」と書いた方が判りやすいと思うのですけど、「『抗生物質』 は 『坑ウィルス薬』 も含む場合があるし、専門機関じゃ 『抗菌薬』 ってきちんと区別するし…」 なんて事情なんでしょうね。 公式発表をする側の苦労が覗えます^^;
その他の理由いろいろ
「インフルエンザウィルスが乾燥に弱い」の根拠とされている理由は、他にもあります。
それらをいくつか紹介しましょう。
「感染者の体外に出たインフルエンザウィルスは、時間が経過すれば壊れてしまう」 事を、念頭に置いた上で読んで下さい。

@ 多湿状態になると、『飛べなく』 なる

大気中に存在するウィルス粒子は 「軽いので、浮遊している」 状態になります。

多湿状態になると大気中に水滴が多くなるので、水滴にくっついて落っこちちゃうという考え方ですね。

また、「正(+)に帯電している状態なので浮遊している」 と表現しているところもあります。

空気清浄機の 『プラズマクラスター』(※) あたりを調べればいっぱい出てきますので、興味があれば調べてみるのも面白いと思いますよ。

※プラズマクラスター開発元の某企業の説明ページを見ると、めちゃくちゃ効果がありそうに見えるのですが…実際のところは、どうなんでしょう?
A 乾燥状態の方が、「遠くまで飛ぶ」

これは、見方によっては@に含まれます。

インフルエンザの感染経路は、大半が 「せき・くしゃみによる飛沫感染」 と言われています。

空気が乾燥している時は、空気中の障害物(水滴等)が少ない環境ですから、飛沫やウィルス粒子は遠くまで飛ぶ事が出来ます。

でも、湿度が高くなると、空気中の水滴が多くなりますから、それにぶつかって落っこちちゃうって考え方ですね。


上記@Aに 「ウィルス粒子は、時間の経過と共に壊れる」 という要素を加えると、「湿度が高い時は、ヒトに届くまでに、ウィルス粒子が壊れてしまう確率が高くなる」 という事になります。

2つともなかなか説得力のある話ですし、湿度を高くする事は、「それなりには効果がある」 と考えてもよさそうです。

でも…2つとも、「湿度を高くする事で、インフルエンザウィルスが感染部位に到達する事を遅らせる事が出来る」 事は説明できても、 「どうして熱帯では1年中発生するのか?」 だとか、「どうして熱帯地方でもしっかり流行を引き起こすのか?」 という疑問に答えられないんですよね。

熱帯地方は多湿ですし、高温でもあります。
その上、流行するのは雨季だそうですから、多湿の極みみたいな状態です。

う〜ん???

どうやら、何かしら違う要因があると見てよさそうです。
そもそもインフルエンザウィルスって、環境中ではどの程度の間、壊れないでいるんでしょうか?
ウィルス粒子が壊れるまでの時間
なんで突然 『ウィルス粒子』 になっちゃったかというと、「インフルエンザウィルスが壊れるまでの時間」 では長すぎたからです^^;
ただそれだけの理由ですので、本題に戻りましょう。

具体的な数字が判っていた方が対策もとりやすいので、「ウィルス粒子が壊れるまでの時間」を調べてみました。

Wikipediaの 『インフルエンザ』 の項目には、以下の数字が記載されています。
インフルエンザウィルスが壊れるまでの時間
@ 皮膚の表面等の「壊れやすい」環境(※):5分未満
A 「壊れにくい」環境(※):約15分間
B 実験環境下 : 最長で1〜2日間
※『RNase』が存在すれば壊れやすく、存在しなければ壊れにくい環境になります。
『RNase(リボヌクレアーゼ・ribonuclease)』は、RNAを分解する酵素です。
(インフルエンザウィルスは、RNAウィルスですからね)
この数字からすると、ウィルス粒子が感染者の体の外に出てから、15分も経過すれば壊れてしまう事になります。
簡単に図にすると、こんな感じですね。
となると、
「多湿状態であれば、空気中の水滴等にぶつかったりしている間に、ウィルスが壊れてしまう」
「逆に乾燥状態では、ウィルスが壊れる前に、感染部位に到達してしまう可能性が高い」
と言ってもよさそうです。

にしても、よく見かける 「湿度がxx%以上になると、インフルエンザウィルスの○○%が死滅する」 という類の記述…コレ、時間はどう考えてるんでしょうか?(常時加湿が前提?)

それはそうとして、やっぱり 「なんで熱帯地方でも流行するのか」 の答えにはなりませんよねぇ…。

と、ここで、Wikipediaの同じ項を読んでいたところ、以下の記述が。
飛沫中のウイルスが感染力を保つ期間は、湿度と紫外線強度により変化する。
冬では、湿度が低く日光が弱いので、この期間は長くなる。
これかぁぁぁぁ!!!
要素は湿度だけじゃない
前のセクションでWikipediaから引用した最後の一文が、全てを物語っています。
簡単にまとめると、こんな感じになります。

環境湿度紫外線強度感染リスク
温帯地方の夏 低い
熱帯地方の雨季 高い
温帯地方の冬 とても高い

日本のような温帯地方の冬は、ダブルでウィルス粒子が壊れにくい環境にあるわけですから…そりゃ流行もしますよね^^;
2005年〜2007年、沖縄県で3年連続 「夏のインフルエンザ流行」 が発生しましたが、この時はいずれも、「例年になく降水量が多かった」 そうです。 やっぱり、紫外線量が少ない環境にあったんですね。

紫外線量も考慮に入れて、前のセクションの図を書き直すと、こんな感じになるでしょうか。
熱帯地方の雨季にも流行してしまう事を考えると、紫外線量の方が影響が大きいのかもしれません。
冬に室内を加湿したからと言って、環境としては熱帯地方の雨季に近い事を考えると、過信は禁物のようです。
湿度を75%以上に保ってしまうと、今度はカビが発生しやすくなっちゃいますしね^^;
おわりに
実のところ、今回のお話は、
「『適切な湿度にする』 は 『体のメンテナンスをきちんとする』 と同義語なので、健康に気を配る事が大切ですね♪」
という結論になる予定で書き始めました。

全然違う結論になっちゃいましたね^^;

今回の話を書いていて痛感したのは、「○○はxxxxだ」と知っていても、そこで止まってしまっては、見えるものも見えてこないという事です。

それこそ今回の話が実例になってしまいますが…書き始めた段階では、「適切な湿度を保つのは、人間側(のどの粘膜)の対策の面が大きい」という事までは知っていたんです。 でも、紫外線量については、全然考えていなかったんですよ(汗;

ホント、突き詰めて調べる事は大事ですね^^;
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