冬虫夏草フィールドに出る前に > 腹を抱えてのたうち回らないために
掲載日:2012/4/16

腹を抱えてのたうち回らないために

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野外で調理をする機会は、意外と多いと思います。
でも、食中毒を起こしてしまったら、シャレにならないですよね^^;

このコーナーでは、病原体による食中毒の予防と、その根拠について書かせて頂きます。
とはいえ、本当に常識的な対応で十分なので、そんなに神経質になる事もないんですけどね。
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食中毒の予防のためにしたいこと

実も蓋もなく、いきなりまとめです。
本当に常識的な対応で大丈夫なのですが、あえて書くと以下のようになります。
食べる前に注意すること
  • しっかりと手を洗う
  • 石鹸か消毒用アルコールを使って手を洗う

調理する際に注意すること
  • 食品の管理温度には気をつける
  • 十分に加熱する
  • 手に怪我をしている時は、調理を避ける
いやホント、書いててばかばかしくなってくる位に常識的なのですが、おおまかに書くと
● 病原体を洗い流す
● 壊せる病原体は壊す
● 食品に病原体を混入させない
● 食品中で病原体を増殖させないようにする
という事になります。

これより先は、それぞれの対応について、少し細かく書いていきます。

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しっかりと手を洗う

基本中の基本です。「病原体を洗い流す」対応になります。
全ての病原体への対策になりますが、特に以下の病原体への対策となります。
・対策としては、基本中の基本
・ノロウィルス等の、『エンベロープを持たないウィルス』への対策の意味も大きい
『エンベロープを持たないウィルス』は、ロタウィルスなんかもそうです。
これらのウィルスは石鹸や消毒用アルコールが効かないので、物理的に洗い流してやるわけです。
「エンベロープって何よ?」と思われた方も多いのではないかと思いますが、それについては、次のセクションを読んで下さい。
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石鹸か消毒用アルコールを使って手を洗う

こちらも基本中の基本かつ、常識的な対応です。「壊せる病原体は壊す」対応です。
でも、何故「石鹸や消毒用アルコールを使う」なのでしょう?
食中毒以外の感染症対策の面も大きいのですが、これは以下の理由によるものです。
@ 通常の細菌への対策
A『エンベロープ』を持つウィルスへの対策
@はともかく、Aの『エンベロープ』は普段聞きなれない単語なので、「なんじゃそりゃ?」と思われたのではないかと思います。
知っていて損はないと思いますので、個別に少し詳しく説明しましょう(得もしない気もしないではないですが…)。
@ 通常の細菌への対策
石鹸や消毒用アルコールは、率直に言えば細菌の細胞膜をぶっ壊します
文字通り『殺菌』するわけです。
A 『エンベロープ』を持つウィルスへの対策
ウィルスによっては、『エンベロープ』(外套膜)と呼ばれる、タンパク質の膜を纏っているものがあります。
これは、宿主となった細胞から飛び出す際に、宿主細胞の細胞膜などを纏ったものです。
エンベロープを持つウィルスの代表的なものに、インフルエンザウィルスがあります。
エンベロープは細胞や抗体に対して偽装の役割を果たすのですが、逆に言えばエンベロープがなければ感染能力はガタ落ちするので、これを剥ぎ取ってやれば感染を予防できるわけです。
石鹸や消毒用アルコールは、このエンベロープを壊してくれるのです。

ここまで読まれて、「じゃあ、エンベロープを持たないウィルスにはどうすればいいのよ?」と思われたのではないでしょうか? だからこそ、「物理的にしっかりと洗い流す」んです。前セクションの『しっかりと手を洗う』には、こういう意味があります。

このあたりについてもう少し詳しく知りたい方は、『ウィルスのタイプと予防』を読んで下さいな♪

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食品の管理温度には気をつける

「食品中で病原体を増殖させないようにする」対応です。
とは言っても、具体的な温度がわからないとどうしようもないので、めぼしいものについて調べてみました。
病原体名増殖温度備考
サルモネラ菌37℃前後で最も活発に増殖する。
増殖可能温度は8℃〜45℃
嫌気性
大腸菌35℃前後で活発に増殖する。
増殖可能温度は6℃〜44℃
嫌気性
黄色ブドウ球菌35〜37℃で最も活発に増殖する。
増殖可能温度は6.6〜45.5℃
嫌気性
温度については、だいたいの目安と思ってください。
35℃前後で最も活発に増殖するものが多いですね。
かなり大雑把ですが、左の温度スケールのようになります。
出来るだけ低温で保存するのが一番だと言えます。

にしても、嫌気性ばっかりだなぁ(『嫌気性』とは、酸素のない状態で活発に増殖する事を示します。逆は『好気性』)
ボツリヌス菌についても調べてみたのですが、見つけ切れませんでした(調べが着けば、追加で掲載します)。
ウィルスについては、宿主となる細胞が生きていないと増殖できないので省きます。

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十分に加熱する

これまた、常識的な対応ですね。「壊せる病原体は壊す」対応です。
一番直感的でわかりやすい対応だとは思いますが、あえて書くと、以下の理由によります。
病原体の多くは、1分も煮沸すれば不活性化する
要するに、熱によって死んだりぶっ壊れたりするわけです。
代表的な病原体を例に挙げると、

病原体名不活性に要する熱処理分類概要
サルモネラ菌75℃ 1分間以上
/ 60℃ 20分以上
病原菌
O-157
(腸管出血性大腸菌)
75℃ 1分以上
/ 65℃ 30分以上
病原菌
ボツリヌス毒素100℃ 1〜2分毒素
ノロウィルス(SRSV)
・ロタウィルス
85℃ 1分以上病原性
ウィルス
クリプトスポリジウム煮沸 1分以上寄生虫
ランブル鞭毛虫
(ジアルジア症)
煮沸 1分以上
/ 60℃ 数分
寄生虫
聞き慣れない病原体も混じっているかと思いますが、めぼしいものは1分も煮沸すれば不活性化するのが判ると思います。
とはいえ、熱処理ではどうしようもないものも存在するわけで…それは次のセクションにて。

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手を怪我している時は、調理を避ける

これも、有名な対応ではないかと思います。「食品中に病原体を混入させない」対応です。
黄色ブドウ球菌の毒素は、熱では壊れない。「食品に混入させない」のが一番!
もう少し突っ込んで書くと、黄色ブドウ球菌は化膿部などに存在するため、そういった手では食品を触っちゃダメという事です(まぁ、そんな手で食べ物触ろうって人もいないとは思いますが)。
黄色ブドウ球菌自体は加熱処理で死滅しますが、毒素は熱では壊れません。
なので、「食品中で黄色ブドウ球菌が増殖しないようにする」のが正確な表現になるでしょうか。
ぶっちゃけて言えば「汚い手で食べ物を触らない」ですね。

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終わりに

以上、野外での食中毒対策について書いてきましたが、本当に常識的な対応で大丈夫という事がわかったと思います。
当たり前の事ですが、『常識的な対応』には、それぞれきちんとした根拠があるわけですし、それぞれの対応は、いったい何への対処なのかを知っておく事が重要だと言えます。
もちろん、ここまでに書いた方法では対処しきれないものもありますが、そこまで行くとどうしようもないでしょう。「塩素を使用して**分間殺菌」だとか、「紫外線を**分照射」だとか、食品工場じゃないんですから^^;
ただまあ…

あからさまに腐ったものを食べて腹壊したとか言われても、
「しらんわそんなん!−−#」です^^;

ここまで読んで下さって、ありがとうございます♪


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