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掲載日:2012/5/4

『生命の設計図』とは言うけれど?

今回は、わりと根本的なところでDNA(デオキシリボ核酸)のお話です。
DNAはよく 『生命の設計図』 と言われますが、どこらへんがどう 『設計図』 なのでしょうか?
「細胞分裂の際に、DNAの2本鎖がほどけて1本ずつに分かれて…」 という話はご存知の方が多いと思いますが 、これじゃあどこが 『設計図』 なのかわかんないですよね^^;

というわけで例によって、「まぁこんなもん」 な感じで話を進めて行きたいと思います。
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『設計図』というよりは『書庫』
個人的な意見なのですが、DNAは 『設計図』 というよりも 『書庫』 と表現した方が近いと思っています。
DNA ⇒ タンパク質合成の流れをざっくりとモデル化すると、
1.
DNAには、タンパク質を合成するための設計図 、『塩基配列』がいくつも収められています(※1)。
普段は、それが書庫の中に収められているイメージです。
2.
タンパク質の合成が必要な時は、まず、合成に必要な塩基配列のみがコピーされます(※2)。
3.
コピーされた塩基配列をリボゾームが受け取り、目的のタンパク質を合成します。
※リボゾームは、『リボソーム』とも表記されます。英語的な発音だと、『ライボソーム』が近いようです。

以上が、「ざっくりとした」 タンパク質合成の流れです。
『リボゾーム』 なんていう、普段聞きなれない名前が出てきましたけど…よく目にする『RNA』が出てきてないですよね。
次のセクションは、RNAについてのお話になります。
※1:DNA関連でよく目にする『ATGC』(塩基)の配列が、ここに収められています。
A(アデニン)・T(チミン)・G(グアニン)・C(シトシン)の配列によって、合成されるタンパク質の種類が異なってくるわけです。
※2:ここのプロセスをマトモに書こうとすると、わりと細かい話になるので(「DNAの2本鎖がほどけて、不要部分がスプライシングされて…」なんて話になります)、 流れをわかりやすくするために割愛させて頂きました。
RNAってどんなもの?
さて、今度は『RNA(リボ核酸)』についてのお話です。
RNAと言っても、代表的なものに『mRNA(メッセンジャー/伝令RNA)』『tRNA(運搬RNA)』『rRNA(リボゾームRNA)』の3つがあるので、ごっちゃにすると 「結局、RNAって何なのよ…」って事になっちゃいます。

では、それぞれのRNAの役割について、簡単に見ていきましょう。

mRNA(メッセンジャー/伝令RNA)
「DNAから、必要な塩基配列ををコピーしたもの」がmRNAです(だから、『メッセンジャー/伝令』 とついているのです)

DNAから必要な部分をコピーする事を、『転写』と呼びます。

このプロセスでは、不要部分を除去する 『スプライシング』 という処理も行われます。

rRNA(リボゾームRNA)
mRNAによって転写・変換された『コード』を元に、リボゾームでタンパク質を合成するのがrRNAです。

性質上、生体内で最も大量に存在するのがこのrRNAです。

これで、タンパク質合成方法が、合成の場であるリボゾームに渡った事になります。

tRNA(トランスファー/運搬RNA)
「タンパク質合成の場」 であるリボゾームに、タンパク質の合成方法が渡って来ました。
これで、タンパク質を合成できそうです。

でも…

渡って来たのは、 『設計図』 だけです。

『設計図』だけ渡されても、『材料』がなければ、タンパク質を合成できないですよね^^;

ここで材料を運んでくるのが、tRNAです。

材料を 「運んでくる」 ので、『運搬(トランスファー)』 とついているわけです。
※「rRNAとmRNAが結合 ⇒ tRNAにくっついて来たアミノ酸がくっつけられて、タンパク質が合成される」という表現の方がより近いとは思います。
それについては、後ほどそこそこ詳しく説明します。

ここまで書いてみて、「う〜ん、この説明じゃなんだかなぁ…」 って感じがしてきましたので、「どういう事が行われて、何が出来ているか」 に説明のアプローチを変えてみます。
というか、普通はそっちで書きます。
ていうか…
最初っからそっちで書けや!
ハイ、そうですとも(汗;
今までに書いた mRNA ・ rRNA ・ tRNA の説明と比べてみてくださいな♪
DNA から mRNA への転写
まずはDNAの中で、タンパク質合成に必要な部分とその周辺を見てみましょう。
下の図の中で、『エクソン』と書かれている部分が、タンパク質の合成に必要な情報を持っているところです。
逆に 『イントロン』 は、不要な部分です。
他に、『RNAプロモータ』 なんてものがありますね。
RNAの転写を行うのは、『RNAポリメラーゼ』 と呼ばれる酵素です(※)。
RNAポリメラーゼは、最初に 『RNAプロモータ』にくっつきます。
転写の開始位置を示しているわけです。
※ポリメラーゼは英語の発音に近い 『ポリメレース』 と表記される事も多いそうですので、検索等の際には気をつけておいた方がよいかもしれません。
RNAプロモータにくっついたRNAポリメラーゼは、DNAに沿って動いて行きます。
この時、読み取ったDNAの塩基配列をコピーして行きます。

はっきり言って、まんまコピー機の読み取りヘッドですw
さて、タンパク質の合成に必要な部分がコピーされました。
でもこれ、『エクソン』だけならいいのですが、不要な 『イントロン』 も混じっちゃってます(※)。
なので…
不要なイントロン部分は捨ててしまい、必要なエクソン部分のみをくっつけます。
このプロセスを 『スプライシング』 といいます。
エクソン部分だけがつなげられたものが、『mRNA』 というわけです。
※この状態のものを、『mRNA前駆体』と呼びます。
リボゾームでの合成
さて次は、リボゾームでの合成についてみて行きましょう。
DNAから必要部分がコピーされたmRNAは、リボゾームに渡っていきます。

その@
タンパク質合成の設計図であるmRNAを、リボゾームが受け取ります。

リボゾームは 『リボゾームタンパク質』 と rRNAの複合体ですので、rRNAはリボゾームそのものと考えておいても差し支えないと思います。
※mRNAの開始位置を示す特定配列を、『開始コドン(スタートコドン)』と言います。
次へ
そのA
アミノ酸を運んできたtRNAが、リボゾームに届きます。

リボゾームは、mRNAと一致するtRNAを、mRNAにくっつけます。
※mRNA上の塩基配列の基本単位を 『コドン』 といい、tRNAはこれと対応する 『アンチコドン』 を持っています。mRNAのコドンと一致するアンチコドンを持つtRNAのみ、mRNAとくっつけます。
前へ  次へ
そのB
tRNAからアミノ酸を受け取ると、リボゾームはmRNAの位置をずらします。

今度は別のtRNAが、別のアミノ酸を持てリボゾームに届きます。
前へ  次へ
そのC
リボゾームは、tRNAから受け取ったアミノ酸をどんどんつなげて行きます。

これをmRNAの終端まで続けて行きます。
※mRNAの終端を示すコドンを、『終止コドン(終結コドン・ストップコドン)』と呼びます。

こうやって出来上がるのが、『ポリペプチド』です。
タンパク質の一歩手前のものだと思ってください。
※厳密には、『リボゾームペプチド』 と呼ばれるものです。
前へ 
ここから『ゴルジ体』で糖鎖修飾されたり、タンパク質分解を受けたりして、最終的に目的のタンパク質が完成します。
多けりゃいいってもんじゃない
ここまで、DNA・RNAと、タンパク質合成のプロセスについて書いてきました。

ここで、少し違った話をしましょう。
ヒトの染色体数は、23対46本(厳密には、22対の『常染色体』 と 1対の『性染色体』)というのは、ご存知の方も多いと思います。
染色体数が多い=タンパク質の設計図をたくさん持っているという事ですから、「多いほど高等生物っぽい」ですし、「多ければ多いほどよさそう」なものです。

でも、実際はどうなのでしょう?

染色体数の最も多い生物を調べてみたところ、ウチダザリガニの376本が最多だそうです。
アレ…ヒトよりも随分と多いですよね? これはどういう事なのでしょう?
実は、一つの塩基配列から選択できるタンパク質の数は、生物によって違ってきます

一つの塩基配列から1つのタンパク質しか合成出来ない生物もいれば、複数のタンパク質を選択できる生物もいます。
人間の場合、確か4種類だか8種類から選択できたと思います(ごめんなさいうろ覚えです。 はっきりしたら書き直します)。

要するに、情報の圧縮効率が高い生物もいれば、ぜんぜん圧縮をしていない生物もいるという事になります。

多けりゃいいってもんじゃないんですねw
おわりに
今回は、もう最初っから最後まで 『フィールドに出る前に』 との関係が全くなかったですが…ここら辺の話だとか、『セントラルドグマ理論』・『逆転写』 なんかは、お薬の話に結構絡んできます。
押さえておいて、損はないと思いますよ♪
(いやまぁ例によって、得もしない気もしないですが…(汗;)
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