あれ? 道はこっちでいいのかな?
迷った、のか?

旧大地峠に入ってから30分ぐらい経って、少し開けた所に出た。
小さな広場になっていて、真ん中に立て札が立っている。 自分が来た方向以外に二つ矢印があって、片方には「大地峠」、片方には「迂回路」と書いてある。さて、 どうしたものか…。
(時間的には、ぎりぎり全行程制覇出来るんだよなぁ。でも、どうしよ? 前みたいな事になったらたまったもんじゃないし)
結局、前に進みたいという誘惑に勝てずに先へ進むことに。 でも、どっちに行けばいいのかな? だいたい、迂回路ってなんだろ? 麓への道って訳でもないようだし?
(ちょっと先にまたこんな休憩所みたいなところがあって、それを迂回してるのかな?)
よく判らないけど、ちょっと進んでみようか。 様子が変であれば引き返せばいいし、その結果時刻が遅くなったら、麓へ降りればいい。
そう考え、「迂回路」の方へ進んでみる。すぐに道が二手に分かれ、片方には「サガ沢キャンプ場を経て麓へ」と立て札が立っていた。 でも、もう片方は…道じゃないのか? 道のようになっているみたいだし、そっちからの足跡も確認できる。 「そっちへ行った」 足跡だとちょっと不安だけど、こっちに向かって進んで来てるって事は、どこかへ通じてるはずだ。 となれば、進んで行っても麓には出られることになる。

もっとも、どこに出るか判らない不安があるのだけど。

おまけにこの道、結構荒れてる感じだ。 でも、ガイドには 「旧大地峠より先の道は荒れている」 と書いてある。 となると、こっちでいいのかなぁ?
(どうも、奥まで行ってる人はあんまり多くない感じだしなぁ。 となると、荒れてるのも当然なのかな?)
「間違ってれば引き返せばいいや」、という軽い気持ちで、わたしは荒れた道の方へ進むことにした。 はっきり言って、無謀だ。初めて来た所だって言うのに。

この道、予想通りかなり荒れていて、ときどき道とは思えない藪を突っ切ることがある。 その度に 「間違ってるんじゃないか?」 という思いが頭をかすめたが、そういう時に限って足跡が見つかる。 「実は獣道だった」、なんて事になったらたまったものじゃないので、その度に足跡を詳しく調べるのだけど、靴底の模様まで見て取れるし…。
結果から言えば、これにだまされてた。 というか、最初っからこんな道に入らなきゃよかったんだけど、この時点ではそんな事は露ほども考えていなかった。 まだ十分明るかったし。
そういうわけで、ほとんど藪こぎの状態でずんずん進んでいく。ときたまヤマハッカだとか、シモバシラが咲いている。季節が終わったのか、場所の違いによるものなのか、奥高尾に比べてシモバシラの数は少なかった。
ちょっとずつ、日差しが赤みを帯びてくる。
(こんな感じで大丈夫なのかなぁ? 道に沿って歩いてるうちは大丈夫だろうけど)
夜間用の装備は持っていないけれど、まぁまだこの季節。 野宿すればなんとかなるさ! 食料だってあるし。
とはいえ、さすがに不安になってくる。 なにしろ見通しがあんまり利かないし、初めて来る場所だから方角がわからない。 途中、 コマユミ が実を付けてる所で、ちょっと休憩。再びずんずん進んで行くが、だんだん道とは思えない様相を呈してくる。
(まずっ! これは迷ったかも!?)
思っても、もう分岐点から1時間ぐらい歩いている。 それに、なぜか足跡はまだ確認できる…この足跡、ホントに人のもの? でも、ちゃんと靴を履いて歩くもので、人間以外のものって、なんだ?
(うー、奥高尾の時と同じミス犯してるなぁ・・・。)
とかなんとか思いつつも、まだそんなに焦りはない。
今歩いているのは明るい林床。 ここには、入り口のあたりからずっと見かけている、変な植物がたくさん生えている。 なんなんだろ、これ? 花の終わった様子は綿毛のようで、それから判断するとキク科植物のようだけど…ん!? キク科?
(そっか、これ、ヤブレガサの開いたやつなんだ!)
写真見ると「ヤブレガサ」という感じではないかもしれないけど、この植物、まだ葉が開いていない時は本当に「破れた傘」というイメージが強い。 ただ、その姿があまりにも印象的なせいか、植物図鑑にはそっちの写真しか出ていない事が多い。
(へぇ、ここにはこんなにたくさんあるんだなぁ。春になったら写真撮りに来ようかな?)
そんなこと考えてる場合じゃないでしょ!(この時は本当に楽観的だった)。

「迷っている」、と完全に実感したのは、ついに道が「道」でなくなった時だった。一応先が二股に分かれているけど、どう見ても両方獣道。 試しに片方に進んでみたら、完全な藪になっていた。 しょうがないので分岐まで引き返し、とりあえず休憩をとる。カロリーメイトをばりばりかじりながら、さて、これからどうしたものか…。
(一応、もう一つの方には足跡が続いている、か。でも、考えてみたら、この足跡の人はちゃんと道を判って進んでたの?)
一気に不安になってきた。 ここで野宿して、明日明るくなったら帰る事にしようか? それとも、進んでみる?
結果として、わたしは後者を選んだ。何故かというと…お風呂に入ることに未練があったから(^_^;

辺りを満たしていた茜色の光は、もうかなり色褪せてきている。 でも、まだ歩くのに支障はない。
少しペースを落として進むわたしの頭の中にあったのは…。
(一人で来ててよかった。 友達連れてきてたらエライことになってたよ)
一人で来たから、こんなムチャしてるんでしょうが!
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